Tuesday, July 12, 2011

与“风入松”擦肩而过

北京大学哲学系の教授が始めたことで有名な学術書店「風入松書店」の休業がネットで話題になっています(左岸文化网《风入松歇业,书店歇了?》)。
開業した1995年のころは、書店と言えば国営の新華書店ばかりで、あとは出版社直属の小売店(三聯書店とか、中華書局とか)が北京のような大都市にはいくつかあり、民営の書店はきわめて例外的でした。魯迅にちなんだ「三味書屋」という本当に小さな書店が北京市中心に近い胡同にありましたっけ。その2階で週末だけジャズ演奏が行われるというので潜り込んでみたのも1995年のことです。1990年代後半、急速な消費文化の発展のなかで、何フロアもあるような大型書店が大都市に次々と開業し、国学ブームなどもあって、「風入松」のような学術専門書店も増えていきました。
わたしは内モンゴルにいましたので、そのような消費文化の香りを強烈にかいでいたわけではありませんでしたが、それでも中山書店という新華書店系列の店が大学人向けにあって、よく入り浸っていたものです。北京に「風入松」という変わった書店があるということだけはどこからか風の便りに聞いていて、いつか行ってみたいとぼんやり憧れていたものでした。
2000年7月のとてもとても暑い日、その日が訪れました。それはすっかり慣れ親しんだフフホトを離れ、家族3人で東京に移住する、まさにそのトランジットで北京に一晩泊まったときのことでした。まだ1歳に満たない子どもを慣れない酷暑の北京で連れ回すわけにはいかなかったので、ひとりタクシーで噂だけを頼りに海淀区まで飛ばしたのでした。が、北京大学のすぐそばにあるとはつゆ知らず、とりあえず海淀図書城まで行けば何とかなると思って向かったものの、目当ての店は当然見つからず、なんとか風入松と並ぶ名声を誇っていた国林風書店で何冊かの本を購入しました。実は、その時は気づかなかったのですが、この日は38度以上の熱をだしており、身体がだるいのは北京の暑さのせいだと決めつけつつも、じっくりたっぷり本を選ぶ体力すらなく、ホテルに帰っていったのを覚えています。
結局、このとき風入松には行けず、ついに果たされたのは、実に、2010年1月に北京大学を訪れたときのことでした。10年越しだったのですね。
風入松休業の背景には、ネット書店や電子書籍の繁栄があるようです。ここ数年間、業績が悪化を続け、家賃を払うことが困難な状態の中で、ずっと我慢をしていたらしいのです。
中国の書店の風景と言えば、ゆっくり本を選ぶ読者のために小さな椅子が随所に配置されているサービスの良さと、必死に学術書の内容をノートに書き写す大学生のすがたを思い出します。そんなことをしていてもすぐに追い出されるようなことがないのは、本の売り手と買い手の双方に共感が生じる余地があったからでしょう。
東京に拠点を移してからのわたしは、本屋でまったりするような時間的余裕もなければ、本を買うお金などはなおさらありませんでした。経済的に余裕ができてからも、学生時代のような贅沢な時間はすでによみがえらず、専らネットを通じて本を買っています。街の優良な学術書店を維持していくのが難しくなっていくのは、時の流れで仕方がないことなのかも知れません。書棚の縁にうずくまりながら一心不乱にノートをとり続ける学生のすがたも、いずれは過去のものになっていくということでしょうか。

あれから11年、長いような早いような。

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