Friday, April 11, 2008

中国“国家”的构架

『開放時代』第2期の巻頭テーマ《中国国家的性质:中西方学者对话(一)》は、登場する論者の知名度の高さもさることながら、マクロな視点から主にポスト社会主義時代の中国が示す「国家」のかたちをどう認識すればよいのかということを論じた、内容的にも読み応えのある論文集となっています。上に示したリンクからは、収録論文の梗概を見ることができます。また、紹介によると、この特集は、"Modern China"2008年1月号に掲載された"The Nature of the Chinese State: Dialogues among Western and Chinese Scholars"の中国語版だということです。目録を下に掲げます。

黄宗智(Philip C. C. Huang) 集権的ミニマリズム:中国における準官僚と紛争解決を主とするクアジ・オフィシャルな基層行政(黄宗智《集权的简约治理:中国以准官员和纠纷解决为主的半正式基层行政)
康暁光・韓恒 類別コントロール:今日の中国大陸における国家社会関係に関する研究(康晓光/韩恒《分类控制:当前中国大陆国家与社会关系研究》)
王紹光 中国におけ公共政策アジェンダ設定モデル(王绍光《中国公共政策议程设置的模式)
孫立平 ソーシャル・トランスフォーメーション:発展社会学の新たな課題(孙立平《社会转型:发展社会学的新议题)
汪暉 対象の解放とモダンに対する問い-『現代中国思想的興起』に関するささやかな再考(汪晖《对象的解放与对现代的质询:关于《现代中国思想的兴起》的一点再思考》)
許慧文(Vivienne Shue) 統治プログラムと権威の混合的本質(许慧文《统治的节目单和权威的混合本质》)
プラゼンジット・デュアラ(Prasenjit Duara) 中国における長い20世紀の歴史とグローバリゼーション(杜赞奇《中国漫长的二十世纪的历史和全球化》)
イヴァン・セレニイ(Ivan Szelenyi) ひとつのトランスフォーメーション・セオリー(《一种转型理论》)

フィリップ・ホアン氏はアメリカの中国近代史・近代思想史研究を代表する研究者で、ここ最近は清代以降の農村社会に対する研究を意欲的に行って、大陸の知識界で少なからぬ反響を与え続けています。個人でサイトを運営しているようですのでリンクを貼っておきます。今回の特集でもコーディネーターになっているようで、巻頭にイントロダクションを寄せて、厖大な論文集の見取り図を示してくれています。中国の基層行政は清代以降、中央官制に組み込まれていない地方コミュニティの自治的システムに支えられており、そうした状態は文革期まで継続していたといいます。こうした主張はたびたび取り上げている楊念群氏の『再造病人』にも如実に表れているものです。孫立平氏が中国の国家/社会関係を分析するための社会学の理論モデルを構築する際に、政治過程の多様性と柔軟性に配慮した実践的アプローチが必要だと主張するのも、こうしたホアン氏の認識に通じるものでしょう。もちろん、こうした「第三領域」の存在を、中国における市民社会生成論などとどのような距離感をもって認識するのかということについては意見が分かれるでしょう。康・韓論文は、市民社会論モデルの中で中心的に取り上げられる非政府アクターに対する政府権力の浸透性を等級的(graduated)に分類したものです。これは一面においては、汪暉氏がしばしば批判するハイエクモデルの市場社会論に対する別の角度からの批判としても機能するものかもしれません。王紹光氏は公共政策の決定に影響を及ぼす圧力が民間から政策決定者の間のどのレヴェルで生起しているのかに応じて、政治過程における民衆参加形式をモデル化しています。これは、中国における政策決定プログラムを類型化しようとするおもしろい試みと言えるでしょう。改良-革命に代表される二元論モデルとは別の可能性に対する模索の試みです。汪暉氏は、『現代中国思想的興起』を、その後のさまざまな評論に鑑みながら、再度総括的に自己解説したものです。社会学的視座から中国の国家/社会構造に対するマクロな把握を試みた他の論文とは明らかに異質なものですが、「中国」というひとつの文明体のかたちを考える上で、汪暉氏の帝国-国家を中心とする分析の視点が非常に重要であることはいうまでもないことです。彼の論述の規模が大きすぎて、その全体に対する適切な批評が困難であるのは、残念なことです。
 全篇を貫く共通の前提は、中国の社会構造のトランスフォーメーションをポスト社会主義的現象であることだと思われます。その意味で、東欧の新家父長制、中欧の新自由主義と中国の制度転換を比較的視座のもとに類型化してみせるイェール大学のセレニイ氏の論文は、中国研究者にとってはありがたい研究です。 

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