Monday, May 14, 2007

所谓“钉子户”

中国で近年来大きな社会問題として取り上げられている「野蛮拆迁(暴力的な取り壊し)」、これは不動産開発に伴う住宅地の土地収用と家屋取り壊しが、正に暴力的な強制を伴って行われている現象のことで、最近では、重慶で立ち退きに抵抗する「钉子户(くぎ世帯)」の様子が、写真入りで日本を含む海外メディアにも多く取り上げられました
海外メディアや、海外のチャイナ・ウォッチャーたちは、最新の中国情報を中国メディアを通して得ているので、当然のことながら、このニュースについては、中国国内でも話題沸騰であったようです。左岸文化には、张宏良《“钉子户”把什么钉上了中国历史?》という文章が掲載されています。その冒頭にはこう書かれています。

数日前、重慶歌楽山のふもとで風を受けてはためく巨大な五星紅旗が中国全土、ひいては世界の注目を集めた。基礎の周囲に、20メートル以上の深い穴が掘られ、今にも倒れそうになっている古びた家屋の屋根には、この家屋の男主人が日差しを防ぐように、鉄塔のように高く中華人民共和国国旗を掲げ、女主人は、中華人民共和国憲法を手に持っている。彼らは国旗と憲法を使って、基礎が掘り起こされて今にも倒れそうな、先祖から伝わる家を守っている。

ポイントは、彼らにとって国家とは何か、ということです。張宏良氏は、このような暴力的措置に出るのは、往々にして地方の国有企業だといいながら、「国有企業」は、現在、「官営企業」に成り下がってしまったといいます。

経済的性格からいえば、国有企業は全民所有制企業であり、公有制としての性格を持つ。一方、官営企業は官僚集団独占企業であり、私有制としての性格を持つ。官営企業と私営企業は、私有制経済の基本的な二つのかたちだ。前者は集団的独占であり、官僚資本に属する。後者は私人による独占であり、指摘資本に属する。だが、両者の私的独占としての経済的性格は全く同じだ。ただ、私人による独占に比べて、集団的独占の最大の特徴は、贅沢三昧をきわめることだ。(中略)中国の勝ち組たちが「我が世の春」を日々謳歌していられるのは、国有企業改革を通じて、国有企業が官営企業に変わったことがその根本にある。

このような事情、そして、不動産開発ブームに乗った野放図な土地収用の現状については、興梠一郎氏が紹介しているとおりです。その『中国激流』では、こう書かれています。

問題の根源は、住民の財産権を保障する法律がないということである。「憲法」には2004年3月の全人代で、「合法的な私有財産は侵犯されない」(第13条)と新たな規定が設けられたが、私有財産を保障する法律は制定されていない。住民が「憲法」の条文を盾にとって立ち退きや取り壊しに反対しても、裁判所で受理もされない。ただ、この点についても政府は動きを見せ、「物権法」の起草に入っている。起草グループの一人である著名な法学者・江平教授は、「「物権法」は、個人の私有財産保護の問題を解決するために必要だ。立ち退きで発生する問題も対象だ」と語っている。

しかし、「物権法」は、こうした「钉子户」に救いの手をさしのべるのでしょうか。再び、張氏の文章を見てみましょう。

理屈上では、「物権法」が可決したばかりの今、たとえうわべだけであったとしても、法律エリートたちはこうした「钉子户」に同情を示してもいいはずなのだが、驚くべきことに、「物権法」起草グループを含む、この法律を宣伝していた法律家たちは皆、強制立ち退きを支持している。

このくだりは、いわれのない言いがかりではなさそうです。興梠氏も紹介している中国政法大学の江平氏は、「物権法」起草に関わった知識人グループの代表的人物ですが、立ち退きを支持する発言は、中国メディアで広く報道されました。彼は、司法的判断の下で正しく補償が行われることを前提として、なおも「钉子户」がその補償に不服である場合には、強制立ち退きは支持されるべきだと述べています。ただ、氏も認めるとおり、現行の法律では、補償の適切さ如何を判断するのに依拠可能な法律がないようです。
さて、これは一体どうしたことなのでしょう。日本の報道では、往々にして財産権の私有化拡大に関連する中国国内政治・経済・社会の動向を、ポジティヴな変化としてとらえる傾向があるようです。しかし、本当にそうだとすれば、このような文章、そして現象をどのように理解すればよいのでしょうか。今、中国で起こっている変化をどのようにとらえるのかということは、「新自由主義対新左派」として表象される長き論争(もうかれこれ十年近くなりました)をどう評価するかにもつながりますので、予断を許しません。
ただし、このあたりの複雑な襞をほぐしていくことなく、ただ伝えられてくることだけを見ていては、そこに意識的・無意識的に設定されている前提を隠し、その結果、大切なものを見落としてしまう可能性がありそうです。
 

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