Friday, July 4, 2008

《启蒙的自我瓦解》

大学院の授業で一学期間講読してきた许纪霖/罗岗等著《启蒙的自我瓦解:1990年代以来中国思想文化界重大论争研究》(吉林出版集团有限责任公司,2007年)は、1990年代の中国知識界で争われてきた諸問題を論争史という枠組みで俯瞰しようとした力作です。「知識界」という言い方は日本語として馴染まないものであるかもしれません。この本のテーマ(啓蒙の自己崩壊)自体、編著者たちの「知識人」たる自負がいかに強いものであるかを示しているとも言えるものです。おそらく、これは中国の知的土壌のなかで、士大夫意識がいまだに作用し続けているということを示しているのでしょう。
この本の最も優れた点は、巻末附録として、詳細な文献リストを載せているところです。これらを追っていけば、1990年代の中国で自他共に知識人と見なされている人々がどのような発言をしてきたのかがほぼ全体的に把握できそうで、たいへん貴重な同時代史資料集になっています。幸い、中国語のネット空間では学術資料のデータベース化がたいへん進んでおり、ことにこの本が言及する論文はここ20年来の新しいものばかりですので、簡単に入手できます。卒論や修論で今日の中国における思想状況をテーマにする場合には、恰好の手引き書になるはずです。
もちろん、いわゆる「新左派対新自由主義」に最も端的に代表されるように、論争の複雑な多元性を無理矢理二元論に還元してしまうこと自体の暴力性や政治性、そしてその結果もたらされるであろう議論自体の不毛化のおそれをこの書物が完全に逃れているとは言えません。しかし、議論の明確化のために、いったんこの使い古された(政治的な)図式を受け入れつつ、内部の複雑さと多様さを、論争の内包する豊かさと可能性の方向において論じきろうとする姿勢が顕著に見えている点は評価すべきだと思われます。

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