Wednesday, January 17, 2007

回忆2006年

拙稿「モダニティとアイデンティティ」(中国:社会と文化、第21号、2006年6月)の中でも紹介しましたが、『2004年最佳小说选』(北大出版社,2005年)に掲載されていた短編小説群には少なからぬ衝撃を覚えました。特に、巻頭の『那儿』(曹征路)は、国有企業改革が何をもたらしているのかを深刻に考えさせる作品でした。拙稿にも書いたように、『往事并不如烟』の爆発的なブームには、正直のところ、ちょっとついていけない感覚を抱いていただけに、いわゆる「底層文学」が新鮮でした。「底層文学」については、その後、尾崎文昭先生が『アジア遊学』第94号で詳しくご紹介くださり(底層叙述-打工文学-新・左翼文学)、この『小説選』も取り上げてくださっています。2005年秋から半年の間、東大教養学部で講義をされた汪暉先生が、学部生向けの授業の中で、一連の国有企業改革の中で労働者たちがどのような現実に直面しているのか、具体的な事例を使って紹介されました。これは、「改制与中国工人阶级的历史命运」(天涯、2006年第1期)という論文にまとめられています。
一方で、洪治綱氏が言うように、「底層」はあくまでも「底層」、つまりサバルタンなのであって、いわゆる「底層文学」や「底層への思いやり(底层关怀)」もまた、一大消費文化の中で消費されていくためだけに生産されていくのではないか、その証拠に、2006年には、この「ジャンル」で見るべきものがなかったではないか、という指摘にもまた、共感を覚えます。
(洪治綱氏の文章は、左岸会馆http://www.eduww.com/Article/ShowArticle.asp?ArticleID=11026
例えば、「わたしは、『小説選刊』第1期を受け取ったとき、表紙の写真にたいへん驚いた。その出稼ぎの若者は、マントウを一山抱えてむしゃむしゃとかぶりつきながら、なんと無邪気に笑っていた。「底層への思いやり」というやつか、とわたしは思ったのだった。」などと洪氏は言っていますが、このようなかたりの視点が一人歩きしてしまうのは、かえってグロテスクな光景だと感じます。

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