Thursday, October 29, 2009

nomos、礼、习惯法和普遍性

ネイション・ステイトに対しては批判的に考えることがいつのころからか当然のようになっていますが、中国ではむしろ、いかにしてそれを形成していくのか、ということがより現実的な問題として共通の関心を呼んでいるようです。そこには、新しい60年の前半に展開された急進的な社会主義化に対する反動とも言える、文化主義が強く作用しているのでしょう。『読書』2009年第10期、许章润《“习惯法”的当下中国意义》は、人民公社制に造反して秘密裏に生産請負制を導入した安徽省小崗村18世帯農家の「義挙」について、次のように述べています。

小崗村18世帯農民の「聚義」は、「人民」がみずから政治立法によって解放を実現した(中略)ということを象徴しているだけではなく、「人民」が自然の法にしたがったということ、つまり、信義と公義のあるべき姿を示す人間社会の秩序に導かれつつ、「習慣法」のルールや手続きにのっとって、人為的法に対する拒絶をきっぱりと行ったのだ。したがって、これは理性による自己立法として、仁愛、理知、信義、平和の端緒に対する追求も含めて、一国の内部における永久平和という意味において、悪法に対する見事な揚棄なのであった。(中略)したがって、このケースだけをとってみても、「習慣法」によって、民族全体が道徳によって自らを救う道へと導かれていくのだと言ってもいいだろう。

明らかに、この文脈では「習慣法」が自然化されており、しかも、自然化された範疇のなかには道徳も含まれています。つまり、ここで文化は自然化されており、文化的「人民」の自己救済は、「人為」から「自然」への自己解放によって成し遂げられると言うのです。作者は同時に、「「習慣法」の発見と再発見は、中国というネイション・ステイトの構築という歴史的発展の有機的構成部分であり、未来の人類の永久平和における世界的法秩序を準備する蓄積となる。」と述べています。
さて、同じ号の『読書』には、シャディア・ドゥルーリー(Shadia B. Drury)のシュトラウス論の一つ、The Political Ideas of Leo Straussの中国語版(《列奥·施特劳斯的政治观念》,新星出版社)に対する訳者解題として、王利《施特劳斯的启示》という文章が掲載されています。正確には王利氏は訳文の校訂者という位置づけですから、日本の習慣的な言い方では監訳者ということになるのでしょう。王氏はシュトラウスの「自然」とはいったい何なのか、と問いかけつつ、それが結局のところはユダヤ-キリスト教的な「神学-政治」のフレームワークを相対化するものではないと述べます。すなわちそこでは、人間性の普遍とは、神性の普遍であるとしか理解されないというのです。そこで、むしろ非西洋世界において、シュトラウスから受け取るべき問題の一つは、ノモスとは何なのか、ということになると彼は言います。

わたしたちのノモスとは何なのか。ノモスはシュトラウスが自然(ピュシス)と一対で用いたものであり、自然の発見は政治哲学の始まりであって、シュトラウスにとっては西洋文明の始まりであった。しかし哲学もなく、神の啓示もない民族にとっては、ノモスの意義こそ重大なのである。その本来の意味からすると、ノモスには習俗、伝統、習慣などの意味がある。わたしたちの文化伝統に照らすと、「礼法」や「礼俗」に相当するだろう。したがって、シュトラウスのわたしたちに対する最大の示唆は、わたしたちの「礼法」秩序とは何なのかを問いただすことである。

シュトラウスのnatural rightを、王氏は「自然の正当さ」と翻訳しています。しかし、その「自然」とはいったい何なのか、神を共有しない非西洋的世界において、「正当さ」はどこから賦与されることになるのか、という問いは、もう一つの「自然」を求めることによって明らかにされるのではなく、むしろノモスの側を徹底的に問うていくことによって探究されるべきであり、そこに政治学が生まれてくると、彼は述べます。
中国ではもう十年近くシュトラウス・ブームが続くと言います。ブームの土壌がどのような知的雰囲気のなかで形成されてきたのかは、許章潤氏の議論からも垣間見えることでしょう。おそらくそれは、康有為以来の普遍主義的モダニティ論と系譜が重なり合うものです。そこで称揚されている「普遍」の意味を厳しく吟味する必要があることはもちろん言うまでもありません。
なお付言しておくと、ドゥルーリー氏はカナダ在住の研究者です。シュトラウスの議論を新保守主義の台頭を助長する思想であると批判する声の代表的論客であるようです。王利氏は彼女のことを「自由派知識人」と呼んでいますが、これは混乱を招く言い方かもしれません。たしかにドゥルーリー氏は、アメリカのリベラル・デモクラシーの価値を高く評価しています。しかしそれはリバタリアニズムにつながっていくのではなく、むしろリベラル・フェミニストとして妊娠中絶やアファーマティヴ・アクションに対しても言論を行っているのだそうです(柴田寿子『リベラル・デモクラシーと神権政治』)。

Wednesday, October 28, 2009

Q&A集已经更新

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Tuesday, October 20, 2009

汉语学习答问集

主に駒場で中国語一・二列を受講している学生さん向けに、新しくQ&A集を始めることにしました。以前のメーリングリスト(石井剛の中国語クラス)で公開していたものも、徐々にこちらのほうに移してくる予定です。本ブログ右側欄外の「Links」から入ることができます。

Friday, October 16, 2009

冬学期课程介绍

「近現代中国思想史基本文献講読」
時間と場所:木曜2限/本郷キャンパス法文一号館218教室
教材:劉師培『小学発微補』(寧武南氏民国二十五年刊刻『劉申叔先生遺書』本)
白文を現代中国語で発音して、日本語で詳しい訳注を附していく精読の授業です。翻訳と注釈は日本語が必ず要求されますが、授業中の発言は中国語でもかまいません。

本课程以精读和译注为内容,学生被要求将没有标点的原始文本翻译成现代日语,并加以详细的注释。在课堂上,不排除用汉语发言,但翻译和加注的工作必须以日语完成。